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出版物紹介〈『オーテマティック 大寺聡作品集』〉

井原 慶一郎

大寺聡『オーテマティック 大寺聡作品集』井原慶一郎監修、フィルムアート社、2018年

はじめに

 本書はイラストレーター大寺聡、初の作品集である。
 東京・国立市で育った大寺さんは、小学6年生のときに見た映画「スター・ウォーズ」に衝撃を受け、以後「スターログ」などのSF映画雑誌を貪るように読み、ラルフ・マッカリー、ジョー・ジョンストン、シド・ミードといったイラストレーターの作品に触れることで、イラスト一本で生計を立てることを真剣に考え始めた。
 高校1年生のときから東京武蔵野美術学院(美術系の予備校)に通い、デッサン漬けの日々を送る。1986年、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科入学。大学4年生のときには東京・渋谷のギャラリーART WAD’Sで初の個展を開催した。大学卒業前から「就職しない活動」と称して広告代理店や企業に対して営業活動をおこない、フリーランスのイラストレーターとしての地歩を固めていった。
 大寺さんは1990年代初めにイラストレーションのデジタル化に立ち会い、日本でAdobe Illustratorを使って商業イラストを描き始めた最初の世代である。以後30年近くにわたり職業イラストレーターとして国内外で活動してきた。
 都会の集合住宅での暮らしに疑問を感じていた大寺さんは、2000年、亡き父の郷里である鹿児島県日置市吹上町に活動拠点を移す。祖父が遺した土地に家を建て、21世紀型の小さな暮らしを実践しながら、最新のデジタル技術と豊かな自然の接点をテーマに創作活動を続けている。
 本書の構成は以下のとおりである。
 イラストレーター大寺聡の半生を振り返る「HIStory ヒストリー」(第1章)、21世紀型の暮らしと創作のアイデアを詰め込んだ「CONcept コンセプト」(第2章)、機械文明と原始文明の対話と融合を壮大なスケールで描いた「PANorama パノラマ」(第3章)、本編の内容を解説した「interVIEW インタビュー」(第4章)。
 本書は、大判で豪華な〈美術本〉的作品集ではなく、気軽に「大寺聡の世界」を楽しんでもらうための、よりハンディで手に取りやすい作品集(〈ビジュアル本〉+〈コンセプト・ブック〉)を目指して編まれた。本書は、独立した読み物として構想されているが、霧島アートの森(鹿児島県)で2018年2月27日(火)~4月15日(日)まで開催される大寺聡展「オーテマティック 2018」の公式ガイドブックとしての役割も担っている。
 本書の読者が、大寺聡のイラストの魅力を味わい、21世紀の残り80年をより豊かに生きるためのヒントを見つけてもらえば、本書の監修者として望外の喜びである。

井原慶一郎(鹿児島大学教授)


この記事を書いた人

井原 慶一郎

1998年10月、鹿児島大学 法文学部に着任。専門は英文学、表象文化論。主な関心領域は、ディケンズ研究、アン・フリードバーグと視覚文化史を中心としたメディア研究、映画研究。担当講義科目は「芸術文化デザイン論」「アートマネジメント論」(学部)、「比較文学特論」「表象文化特論」(大学院)など。著書に映画学叢書『映画とイデオロギー』(共著、ミネルヴァ書房、2015年)、訳書にアン・フリードバーグ『ヴァーチャル・ウィンドウ/アルベルティからマイクロソフトまで』(共訳、産業図書、2012年)、チャールズ・ディケンズ『ドクター・マリゴールド 朗読小説傑作選』(編訳、幻戯書房、2019年)、アダム・ネイマン『デヴィッド・フィンチャー マインドゲーム』(DU BOOKS、2023年)などがある。

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