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出版物紹介〈ディケンズ研究〉

井原 慶一郎

卒論、修論、博論と19世紀イギリスの小説家チャールズ・ディケンズを取り上げてきましたので、私の研究の中心はディケンズ研究です。ですから、鹿児島大学ホームページの「研究一直線」に取り上げていただいた際にも、(一直線というからには)もっぱらディケンズ研究について述べました。

ディケンズに関する出版物は、今のところ訳書が2冊あります。

いずれも詳細な解説付きです。『クリスマス・キャロル』は、批評家・翻訳家の高山宏氏に書評を書いていただいたのが嬉しかったですね(「図書新聞」2016年1月30日号)。

冥界からの訪問者たちは次々と別の世界を主人公に垣間見させる。舞台でいえば書割りの急速な展開転換であり、もっと大掛りにいえば要するにパノラマである。格差社会図のパノラマをスクルージとともに我々は眺めているのだ。いうまでもなく文化史的にも名高い「パノラマニアック(パノラマ狂)」の一八四〇年代ではあった。これ、ポイント! 幽霊の舞台化にあずかって力あった当時の幻燈興行等のことは、視覚文化論の名作、アン・フリードバーグ作『ウィンドウ・ショッピング』(松柏社)の訳者たる井原慶一郎氏のこととて、短い解説中に見事にまとめてみせてくれているが、幽霊興行にしろパノラマ的展望にしろ皆、英国ピクチャレスク文芸の問題、そして近現代視覚文芸論の中核テーマなのであり、ディケンズの社会批判小説の意外な後背地の広さに改めて驚かされる。

また、NHK Eテレの「グレーテルのかまど」スピンオフドラマⅡでも取り上げられました。

『ドクター・マリゴールド 朗読小説傑作選』は、幻戯書房の〈ルリユール叢書〉の6冊目として刊行されました。こちらは近年私が注力しているディケンズ朗読研究の成果です。

この本にまつわる一番の思い出は、県外在住の朗読家の多和田さち子さんにわざわざ鹿児島までお越しいただいて、Chimpanzee Studio(鹿児島)で「ひいらぎ旅館の下足番」の朗読音声を録音したことです。

これは私が訳した朗読台本の試金石にもなりました。語り手や登場人物の声を見事に立ち上げてくださった多和田さんにはとても感謝しています。朗読音声は下記リンクから聞くことができます。

『ドクター・マリゴールド 朗読小説傑作選』には朗読版「クリスマス・キャロル」(オリジナル版を約4割の長さに縮約したもの)も収録されていますので、オリジナル版⇄朗読版を比較することもできます。

「朗読をするチャールズ・ディケンズ」(C・A・バリー画)。『ハーパーズ・ウィークリー』(1867年12月7日号)。

この記事を書いた人

井原 慶一郎

1998年10月、鹿児島大学 法文学部に着任。専門は英文学、表象文化論。主な関心領域は、ディケンズ研究、アン・フリードバーグと視覚文化史を中心としたメディア研究、映画研究。担当講義科目は「芸術文化デザイン論」「アートマネジメント論」(学部)、「比較文学特論」「表象文化特論」(大学院)など。著書に映画学叢書『映画とイデオロギー』(共著、ミネルヴァ書房、2015年)、訳書にアン・フリードバーグ『ヴァーチャル・ウィンドウ/アルベルティからマイクロソフトまで』(共訳、産業図書、2012年)、チャールズ・ディケンズ『ドクター・マリゴールド 朗読小説傑作選』(編訳、幻戯書房、2019年)、アダム・ネイマン『デヴィッド・フィンチャー マインドゲーム』(DU BOOKS、2023年)などがある。

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